前編
- 前編
- 6. 退院先の選定:医療的ケアという「高いハードル」
- 7. 再び問われる「DNR(延命意思)」と経済的背景
- 8. 病院の「稼働率」と「期限」を管理する軍師として
- 9. 渉外活動:地域との「顔が見える関係」づくり
- 10. MSWの誇りと、求められる「社会人の基本」
6. 退院先の選定:医療的ケアという「高いハードル」
退院調整において、患者様の状態に合った「行き先」を案内するのはMSWの腕の見せ所ですが、ここには非常にシビアな現実があります。
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介護老人保健施設(老健)の現実 リハビリは受けられますが、終身利用はできません。さらに老健は医療費が「包括(まるめ)算定」のため、以下のような医療行為がある方は受け入れが制限されることが多いです。
酸素吸入、頻回な吸引、インスリン投与(回数による)、カテーテル管理、点滴、人工肛門など。また、認知症の周辺症状(問題行動)の有無も、受け入れ可否の大きな鍵となります。
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療養型病院という選択 病状が重く、常に医療行為(1日6回以上の吸引や意識障害など)が必要な方は、療養型病院が選択肢となります。 ここでは、「急変時でも救急搬送はしない」「基本はDNR(延命処置をしない)」という方針を、ご家族にゆっくりと、かつ丁寧にご説明しなければなりません。
期間も「3ヶ月〜1年以内」と決まっていることが多く、転々としなければならない現実もご理解いただく必要があります。
7. 再び問われる「DNR(延命意思)」と経済的背景
病院への転院を希望される場合、改めてDNRの確認をします。何度行っても、心に突き刺さるような辛い作業です。
どうしても延命を希望される場合は、医療対応可能な「有料老人ホーム」を探すことになります。
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施設の多様性と費用面 施設によって、経管栄養専門のところから軽度者向けまで千差万別です。費用も月12万円程度から高額なところまで幅広く、「年金額」や「家族の援助」といった極めてデリケートな懐事情にまで踏み込み、最適な場所を一緒に模索します。
8. 病院の「稼働率」と「期限」を管理する軍師として
MSWの仕事は相談援助だけではありません。病院経営を支える「管理」の側面も重要です。
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期限との戦い 特にリハビリ病棟への転棟には「発症日からの期限」が法律で決まっています。期限が迫っている症例のスケジュール調整は、秒単位の神経を使います。
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ベッドコントロール(満床管理) 満床を超えてはいけない、かといって空きすぎても経営に響く。各病棟の入院・退院・移動のパズルを常に脳内で組み立てながら、最適な稼働率を維持します。
9. 渉外活動:地域との「顔が見える関係」づくり
週に一度は、紹介元となる病院や、退院先となる施設へご挨拶に伺います。 また「地域連携パス」の中核病院との会議にも出席し、医師や看護師、リハビリスタッフと共に連携の質を高める努力を続けます。
院内では多職種カンファレンスが毎日行われ、その合間にもPHSが鳴り止むことはありません。「電話、面談、記録、カンファレンス」。
正直、どれだけ時間があっても足りない!と思ってしまうのがMSWの毎日です。
10. MSWの誇りと、求められる「社会人の基本」
相談援助の中で私が最も心を砕いているのは、「ご本人を尊重すること」と「ご家族を倒れさせないこと」の両立です。かつて大学で「どちらが大切か」という問いがありましたが、正解は「両方」です。限られた時間の中で、いかに信頼関係を築けるかが勝負です。
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多職種連携の難しさと喜び 古い体質の病院だと、他職種からの風当たりが強いこともあるかもしれません。しかし、医師と対等にやり取りし、一人の専門職として支援を動かしていくことは、この上ない誇りを感じられる仕事です。
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これからMSWを目指す方へ 医師は時に理不尽な要求をしてくることもあるかもしれません。そこで大切なのは、感情的にならずに冷静に受け止める忍耐力と、「報告・連絡・相談」という社会人の基本です。
たずねられたことに迅速・的確に答え、不明点は即座に調べて報告する。この積み重ねが、院長や医師からの信頼に繋がります。