ポケット版「のび太」という生きかた 横山泰行
のび太の人生は一見して失敗の連続ですが、のび太は人生の重要な節目においては着実に希望を叶え、負け犬・のび太から勝ち組・のび太に変身しているのです。
(冒頭より)
ドラえもんがひみつ道具を用いてのび太に行っていることは、まさにエンパワーメントアプローチではないか。
ふとそのような着想が湧いたのは2011年の11月頃で、社会福祉士の受験勉強を始めた頃です。
それから4年半の月日が流れ、ひょんなことから本書を手にして、ドラえもんという作品はこんなに奥が深かったのかと感嘆したと同時に、人生を無理せずうまく送るコツをのび太の生き方から学び取ることが出来ました。
そもそもどんな筆者が書いているのか興味津々でしたが、調べてみると、富山大学で教育学を専門とした名誉教授で、東京大学大学院教育学研究科博士過程単位取得退学で教育学博士という経歴を持っています。
横山氏は、殆どのドラえもんのコミックスから、64811ものコマと、46959ものセリフを集め、全セリフはコンピューターに入力して15年以上分析を続けてきました。
確かによくここまで細かい作品を分析していると感心せずにはいられないような構成になっていました。
のび太の生き方を知ることは、すなわち作者(藤子不二雄)の哲学やメッセージを読み取ることになります。
本書では、ドラえもんの作中に登場した数々のエピソードを取り上げて、のび太の思想や行動から夢を叶えるためのヒントや教訓を中心に学びとることが出来ます。
私が印象深かったエピソードのワンシーンは、
名作『のび太の結婚前夜』において、式を目前にしたしずかちゃんが父に向かって不安な胸中を吐露すると、父は以下のように答えたことです。
「やれるとも、のび太くんを信じなさい。のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとって大事なことなんだからね」
なぜそこまでのび太が周りの人間に好影響を及ぼせたのかが、本書で解き明かされています。
受験勉強への自己啓発本としても活用できますし、本人の自己実現を促すためのコーディネーター、セラピストとしてのドラえもんと援助対象者ののび太という関係性に注目することで、ソーシャルワークにも応用できると感じました。