今更この歳になって資格取得を目指してもなぁ…。
こんな俺じゃもう社会が受け入れてくれないよ。
私が24歳の時に、高校時代の友人が電話口から溜息混じりでそう漏らしました。
彼は友人であると同時に、高校時代のライバル的存在でもありました。
私が唯一好成績を修めた高校2~3年次に、彼は常に中間・期末ともにクラスで1位でした。
総合成績で彼を抜かすことはできませんでしたが、私にとって彼の存在は、お互いを向上し合える良き戦友みたいな感覚でした。
そんな彼は指定校推薦で、有名大学に進学しましたが、卒業後は就職せずに引きこもり生活へと移行してしまいました。
あの優秀で将来が有望視されていた彼がなぜ引きこもりになってしまったのか。
高校時代の彼を知る私には、俄かには信じ難い現実でした。
彼が大学に進学してから、「上には上がいる現実」をとくと実感したようです。
結局4年間何も残さないまま過ぎ去ってしました。
自分が何を目指したら良いのかわからないまま、大学の就職相談コーナーに駆け込んだところ、担当者からは後にシコリが残る衝撃的な一言を突き付けられたようです。
「君みたいな覇気のない学生は、どこの企業も雇ってくれないよ」
彼にとっては最も他人から指摘されたくない言葉だったそうです。
その影響が大き過ぎたのだか、彼は就活も一切せずに、自分の部屋にこもるようになりました。
補足すると、叔父が不動産屋経営しているから、お世話になれるかもしれないと、4年次に唯一受けた宅建試験も落ちてしまったようです。
彼は大学進学後に初めて挫折を覚えて、立ち止まってしまったのです。
大卒後、音信不通になってしまったのですが、1年経ってから諦め半分で電話をかけたところ奇跡的に繋がったのです。
私はその頃、漢検や秘書検に合格していたのもあって、結果が出ると自信がつく、やれば出来ることを、他でもない彼に伝えたかったのです。
そして、社会から遮断されて、孤独な生活を送っている彼に、高校時代に輝いていたあの瞬間を取り戻して、再起動して欲しかったのです。
かなり一方的でお節介な動機でしたが、今こそ自分の経験を話すしかないと使命感に駆られていました。
そんな私の話を聴いたリアクションが冒頭の言葉です。
長い間引きこもり生活を引きずっていることで、すっかり希望を見失っているようでした。
しばらく沈黙が続いた後に、静寂を破るかのような彼の一言が待っていました。
でも、自分で言うのもなんだけど、俺、高校時代めちゃくちゃ勉強頑張ってたよなー。
俺本当は日本史の教師になりたかったんだよね。
宅建もできれば受かりたかった。
彼が当時を回顧したおかげで自己肯定感を少し取り戻し、学びへの未練や夢を語ってくれたことで、千載一遇のチャンスとばかりに、後押しの言葉をかけました。
今からでも、遅くないよ!君ならやればできるよ!
あの頃ホントすごかったじゃん。
彼は私の言葉に、
よっしゃーやる気が出てきた。ありがとう!変われそうだよ\(^o^)
さっきまでの口調が嘘のようで、息を吹き返したようでした。
あれから5年が経ち、彼とは完全な音信不通になりました。
彼の目撃情報や、近況を知る人物が皆無なので、今どこで何をしているのか知る由もありません。
あれからやり直しを図れて、新しい人生を送っているのだか、まだ迷路を模索中なのか、前述した道を歩んでいることを願う他、私にはできません。