今週からスタートとしたNHKドラマ『正直不動産』。
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士資格を取得していることもあって、原作コミック1巻とドラマ1話を視聴しました。
嘘をいとわずに契約を結びまくる主人公(宅建士)がある出来事によって、嘘をつけずに本音を乱発するようになり、お客さんに訳あり不動産物件のカラクリを明かしてしまうという展開です。
賃貸不動産契約だけではなくて、宅建士試験受験者にも参考になる内容でした。
さて、社会福祉士や精神保健福祉士として、仕事を展開する上でも、「正直」である必要があるのでしょうか。
一口に社会福祉士と言っても様々な分野や対象者がいるので、特定業界に絞って述べるわけにはいけませんが、私の経験上からお答えすると、「正直社会福祉士」であることはソーシャルワークを展開する上でとても大切な姿勢だと思っています。
ここで言う正直とは、「クライエントにとって最善を考えた場面で、そのために貢献できる手段や気持ちを正直に伝えること」という定義です。
ニーズに沿った制度につなげたり、関係機関につなげることは、社会福祉士にとって基本的な仕事とも言えるでしょう。
そんなことは当たり前すぎるし、社会福祉士試験でもあたり前のように習っていると感じられた方もおられるかもしれませんが、生身の人間がお相手なので、時には、「正直にならない方が良い」という考えが浮かぶ場面も訪れるものです。
例えば、クラエントが高校生だとして、これまでは親の言いなりに従って塾や受験を続けてきたものの、全日制の高校に進学した後に、「何のために勉強をしたらよいのかわからなくなった」という理由で中退してしまい、ニートのような状態で引きこもってしまったとします。
両親は、せめて高校だけは卒業しないと、中卒では就職の選択肢が限られてしまうからと本人を説得したことで、通信制高校に転入しましたが、登校一日目のオリエンテーションで「ここも違う」と見切りをつけて、通わなくなってしまいました。
こうした経緯があり、将来を憂いた両親が県のひきこもり支援センターに相談を入れました。
「息子を社会復帰させるためにはどうしたら良いのでしょうか?」と、藁にもすがるような思いで頼ってきました。
そこで担当となった社会福祉士(あるいは精神保健福祉士)のみなさんだったら、どのような答えをするでしょうか。
恐らく、その親御さんの訴えだけで的確なアドバイスを返すのは難しく、より具体的な状況を把握するためのアセスメントが必要になってくると判断される方が多いでしょう。
次回の面談で、本人が親に説得されてしぶしぶやってきたので、正直な気持ちを訪ねてみたところ、「高卒がなんのメリットがあるのかわからない。ずっと親のすねをかじり続けるわけにはいけないので、就職をしなければならないという気持ちがある。そのうち正社員として仕事を見つけたいとは思う。月収18万円くらいあれば生きていけるし、雇ってくれるところもあるだろう」ということを言ってきました。
みなさんならどのような言葉をこの高校生にかけるでしょうか。
正直言えば、世の中そんなに甘くない。せめて高校だけは卒業した方が良いというアドバイスをかけたとしましょう。
本人は、「高卒でも中卒でも変わらない。ユーチューバーや起業をして稼いでいる人もいるし、今時安定した道はない。高校に残るメリットが一切ない。親が哀しむから辞めていないだけだ」と持論を声高に述べてきました。
この高校生にとって最善の利益とは何か。正直に現実の厳しさを伝えることが正解なのか。両親のニーズと本人の思いがミスマッチの中、正直な気持ちは表明しづらく、なかなかすぐには判断できないかもしれません。
一例を上げましたが、実際のケースワークでは正直者が通用しないような複雑な場面が何度も訪れます。
正直に伝え続けることで、相手が壁を感じたり否定されたようで、心を閉ざしたり、距離を置かれてしまうことも一度や二度ではないかもしれません。
それでも、私が冒頭で、「正直社会福祉士」を肯定的に述べたのは、福祉職の対象は生身の人間だからです。
正直であることは、社会福祉士の在り方や社会福祉士の倫理綱領に当てはめようとする以前に、人として、大切なかかわり方だからです。
人間だけに、ある人には通用して、ある人には同じやり方が通用しない難しさがありますし、正直でいることでしんどい思いもたくさん経験することになるでしょう。
制度や現実をつきつけるよりも、「私は〇〇と思う」「その気持ちはわかる」という正直な気持ち、慈愛が伝わることで、救われるクライエントも確かにいます。
これらはあくまでも私の経験則からの持論になりますので、ぜひみなさんも社会福祉士や精神保健福祉士資格を取得されて、福祉の現場で実践することで、「正直であることの是非」というこの問いを考えてみていただければ幸いです。