精神科医と公認心理師が選んだ「心が楽になる一冊」として絶賛されたタイトルですが、私も一通り目を通したことがあります。
相手の何気ない一言に傷ついて、モヤモヤして、引きずっていても、当事者はそんな自分のこと等は全く気にせずに、プライベートを満喫しているものである。だったら、嫌な人間の存在にとらわれて、貴重な時間を浪費してしまうのはもったいないという視点を描いた本であった印象です。
確かに、自分のことに捕らわれている状況下では、生産性もなく、過去と想像の世界の未来をループしている世界なので、相手の呪縛から解き放たれることの重要性は理解できます。
本の良いところは、専門家からの見解や助言を与えてもらえることで、視点の切り替えができたり、明日への活力を与えてもらえるきっかけになることですよね。
ですが、みんなが簡単にスイッチを切り替えることができるのならば、人間関係の悩みはもっとシンプルになっているわけですよね。
他方で、他人から言われた一言の傷が癒えずに、何年経っても、何十年経っても引きずっていたり、人格形成や思考に影響を及ぼしたりするものです。
かくいう私も、今でも忘れられなずに、事あるごとに思い出す学生時代の体験や、前職で恥をかかされたり、ショックな一言を覚えていて、フラッシュバックのように思い出しては、悶々としている時間もあります。
私が仕事柄若者達の進路面談を行っている場面でも、中学時代の担任や同級生から放たれた言葉が忘れられずに、対人関係に億劫になったり、人間不信につながっていると受け取られる者が多数います。
自分は言ったことすら忘れていても、言われた側はずっとずっと傷が残ったまま、ともすると時間が止まってしまったかのように見えることもあります。
人間はかんぺきではないし、自分としては意図せずとも相手を傷つけてしまうことも多々あります。
ですが、悪意を持ったり、蔑んだ眼差しで放った言葉は、高確率で相手の心にダメージを与えて、目には見えなくても、心の奥底に傷を残してしまうリスクがあることを認識しなければなりません。
特に対人援助職においては、相談者だけではなくて、関わる人間全てに対して、自身の言葉の影響力を想像しながら臨まないと、取り返しがつかないほど悪循環が生じる怖さも身にしみて感じています。
福祉や教育の世界は狭いもので、以前一緒に仕事をしていた人間と、立場が変わってまた別の場所で関わることになったり、数年後にまた同じ職場で仕事をすることになるパターンが少なくはありません。
当時されたことや、嫌な思いをしたことを完全に忘れ去っていたり、印象が変わっていれば良いですが、悪意を感じ取った側は、そう簡単に気持ちを切り替えられていないものです。
現に私も、以前非正規職員時代に補助として正職員と仕事をさせていただいた時期に、正職の仕事ぶりを俯瞰する中で、自分と同僚との明らかな態度の違いや、新人正職員への辛辣な指導を繰り返している場面等を目の当たりしてきました。
「自分は非正規で下の立場だから、正職と仕事内容も違うし、扱いも違っても仕方がない」と自分を納得捺せ続けてきましたが、最終的には、人としての尊厳が揺らぐような振る舞いをしてきた方には、不信感が募ってしまいました。
それから数年が経って私が別の職場で正職になって再会した際に、相手は自分のことを覚えていました。
当時の態度が180度異なって、対等またはそれ以上に謙って接して来られましたが、その変わりみに平然と対応しつつも、人は立場や状況が変わるとこうも異なるのかと、人間の多面性を改めて感じる出来事になりました。
傷ついてしまった自分だけが時が止まったようで、相手だけが先に進んでしまっていると思っただけで、より怒りや嫌悪感が増して、イライラやストレスが高くなるものです。
冒頭で紹介した書籍にように、自分の内面にフォーカスを当てていて、呪縛されたように閉じこもっていたところ、一歩離れて世界を見渡してみると、視野を切り替えられる糸口になる可能性はあります。
支援職としては、過去や現在に苦しんでいる人間と関わることがメインだと思われますので、リフレーミングのように、違う視点を持てるような促しをできることは大事です。
ですが、人が抱えている過去の傷つき体験は個人差がありますので、一朝一夕には進まないことが往々にしてあるでしょう。
解決につなげようとするアプローチに焦点、結果を出そうとすると、お互いにつらくなりがちですが、いつか状況が変わると信じて寄り添い続けることで、どこかのタイミングで自ら動き出す時が訪れるものです。
そうは言っても、立場的に悠長に待ってるだけではいられないかもしれませんが、当事者からすると、独りで抱えていた過去の傷やモヤモヤを吐き出せて、受け止めてもらえる人間が傍にいることで、前に進もうと思えるような心持ちを整えられるようになる可能性があるものです。
私は10年以上ニートを続けてきた人間がある時、自分の意思で就職試験を受けて、今では社会に足を運ぶようになっている経緯を見ていて、個人差があっても、今の状況はずっとは続かないし、見えないところで本人なりにタイミングを見計らいながら準備を整えていると学ばせていただきました。
もう大丈夫➝やっぱりダメだのサイクルを繰り返しながらになるかもしれませんが、どんなときも受け止めて見守ってくれる支援者の存在があることで、着実に未来に進んで行けるようになるでしょう。