「生活保護」や「児童虐待」「地域福祉」というキーワードはもはや日本社会で常識のように耳にする機会が多いですが、当事者ではないとその実態が把握できない、イメージできないとい思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
社会福祉士試験でも頻出キーワードであるこれらのテーマを漫画やドラマで視覚的に学べる作品が存在します。今回記事でまとめました。
- 1.児童相談所職員の働き方や児童虐待の現状を知れる漫画『ちいさいひと』
- ・児童相談所職員が主人公でコミカルに描かれた『ドン・キホーテ』
- ・児童養護施設の子ども達の目線で書かれた『明日、ママがいない』
- ・里親制度、特別養子縁組制度についてスポットを当てた『はじめまして、愛しています。』
- ・生活保護のケースワーカーを題材にした『健康で文化的な最低限度の生活』
- ・社会福祉協議会を舞台にしたドラマ『サイレント・プア』
1.児童相談所職員の働き方や児童虐待の現状を知れる漫画『ちいさいひと』
タイトル「ちいさいひと」の意味は、物語に登場する主人公を保護した時にかかわったケースワーカーが「子どもと大人は対等で、真剣に一人のひととして向き合う」という敬意を込めて呼んでいることから名づけられました。
主人公は男性で、新人で熱血系の児童福祉司です。「向き合うこと」「諦めないこと」がモットーなで、少年漫画に登場するような困難に自ら立ち向かって頑張り続け、仲間に支えられて支援を展開していく過程が描かれています。
『ちいさいひと』の続編になります。舞台は同じ青葉児童相談所ですが、主人公の相川健太の後輩(コスパ重視、仕事とプライベートを完全に切り分けるという合理主義者)が登場するところから1話が開始します。
主人公は実母から被虐児で、里子としての経験もあり、物語では児童養護施設や一時保護所といった普段の生活ではなじみのない世界について広く描かれています。
施設内虐待、教育ネグレクト、主人公と境遇が重なるケース等が各巻に描かれています。1巻につき1つのテーマで5話収録されています。
4~5巻で描かれている施設内虐待に関しては、1990年台に実際に起きた事件をベースに作られているようで、人間のおぞましさが浮き彫りになりました。
1話の終わりごとに「知っておきたい児童虐待」というトピックで、児童福祉法、児童虐待防止法等の最新事情についても細かく説明されています。
監修者として、埼玉県社会福祉士会会長、子どもの虹情報研修センター研究部長、弁護士、元埼玉県児童相談所職員が関わっており、児童虐待や児童相談所の実態を知る上でとても参考になる作品です。
◆登場人物が社会福祉士試験の受験をします
最新の7巻では登場人物である新人の児童福祉司がより専門性を身につけるために、社会福祉士試験の受験を決意するという展開になります。
過去問10年分を勉強して、100点近く取れるようになっているという描写もあり、社会福祉士試験を題材に使っている希少な作品でもあります。
● 関連コミック
・児童相談所職員が主人公でコミカルに描かれた『ドン・キホーテ』
草食系のひ弱な児童相談所職員の青年、城田。任侠集団の武闘派親分、鯖島。
そんな二人がある日謎の天変地異によって、身体はそのままで魂だけが入れ替わってしまう。魂と体が入れ替わった2人は闇の中で苦しむ子供たちを救う正義のスーパーヒーローになって行く。かくして現代のドン・キホーテ&サンチョと化した、2人の行く末はいかに・・・。(wikipediaより)
2011年に放送された児童相談所職員を主人公としたテレビドラマです。
深刻なテーマを題材にしていますが、ギャグや任侠要素を込めながら勧善懲悪でカタルシスを得られるようなテンポで描かれていました。
・児童養護施設の子ども達の目線で書かれた『明日、ママがいない』
母親の涼香が事件を起こして警察に逮捕されてしまったため、一軒の児童養護施設に預けられることになった少女・真希。 真希は、児童相談所職員の叶から不気味な風貌の男・佐々木に引き渡され、“コガモの家”という名の施設に連れて行かれる。 佐々木が施設長を務めるコガモの家は、不穏な雰囲気を漂わせる場所。そこで真希は、3人の少女と出会う。 みんな、それぞれの事情で実の親と暮らせなくなった子供たちだった。子供たちは本当の名前を名乗らず、あだ名で呼び合っていた。 ピアノが上手なピア美、家が貧しいボンビ。そして、ポストと呼ばれる少女。 圧倒的な存在感を放つポストは、子供たちのリーダー的存在でもあった。ポストは、真希がコガモの家に来た事情を知っていながら、気遣いのない言葉を投げかける。そんなポストに、真希は反発するのだった。(wikipediaより)
2014年に芦田愛菜主演で、児童養護施設の生活をベースに描かれた子ども達側の目線で描かれた作品です。里親さんとのかかわりについても描写が当てられています。
第1話で施設長が「おまえたちはペットショップの犬と同じ」などと暴言を吐き、子どもたちに暴力を振るうなどの過激なシーンが描かれたことで、物議をかもすような展開となり、CMスポンサーが降板したり、脚本が書き直しされることになるほどの社会的影響が広がりました。
ドラマのモデルになった「赤ちゃんポスト」を設置する熊本市の慈恵病院や全国児童養護施設協議会などが「養護施設や里親制度への誤解や偏見を与えかねない」として放送の中止や内容改善を求めて抗議することとなったのです。
最終回はハッピーエンドで終結しています。
・里親制度、特別養子縁組制度についてスポットを当てた『はじめまして、愛しています。』
特別養子縁組をテーマにしたドラマで、『家政婦のミタ』で有名な遊川和彦さんが脚本を書かれています。『明日、ママがいない』のように現実と乖離しすぎているという批判はなかったようで、念入りに取材を重ねて放送に至ったようです。
本作に登場するクールな児童相談所職員のモデルになったのは、大阪の家庭養護促進協会理事・岩崎美枝子と言われています。
※実際に私も岩崎さんと仕事でご一緒させていただいたことがありますが、髪型が似ていると言えば似ていますが、雰囲気や人柄は似て非なるものという印象でした。
里親制度についてスポットが描かれており、里親登録(研修)から里子とマッチングして共同生活を開始した後までの奮闘がまとめられています。親子になることとは、血のつながりが肝心なのかについても考えさせられる作品です。
試し行動や真実告知といった里親の養育に欠かせないテーマについても触れられており、里親制度について学びたい方には参考になる内容になっております。
・生活保護のケースワーカーを題材にした『健康で文化的な最低限度の生活』
新卒公務員の義経えみるが配属されたのは福祉事務所。
えみるはここでケースワーカーという
生活保護に関わる仕事に就くことになったのだが、
そこで生活に困窮した人々の暮らしを目の当たりにして――(Amazonより)
「このマンガがすごい大賞2015」のオトコ編10位に選出されているほど支持率が高い作品で、後述しますが、昨年には漫画の内容をベースにしたドラマ化もされています。
平成27年4月から「生活困窮者自立支援法」が開始されました。
行政だけに留まらず、NPO法人を筆頭に、生活困窮者支援を広げる団体が増えてきました。
相談支援員として、社会福祉士、精神保健福祉士有資格者が要件に掲げられている場所もあり、今後の取り組みが期待されています。
本作は公務員(行政)の立場から描いた生活困窮者支援の物語です。
『ちいさいひと』の主人公と同じように熱血で失敗を繰り返しながらも支援のために決してめげることもなく、周囲に支えられながら困難事例に立ち向かって行きます。
対応の仕方を誤ったことで、死につながったり、更に不幸の連載に繋がってしまうというリスクやプレッシャーと隣り合わせで向き合っていくケースワーカーの苦悩等も描かれています。
日本国憲法25条1項に記されている「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の理念を具現化したのが生活保護法によって支給される生活保護費。
ケースワーカーの新人公務員が様々な生活困窮者のケースと向き合うことで、健康で文化的な最低限の生活とは何かについて考えさせられるような作品になっています。
生活困窮者の実態やケースワーカーの役割を知りたい方にはオススメの作品です。
ドラマ版は下記の通りです。
視聴率は振るわなかったようですが、私的にはフィクションと片付けてしまうのはもったいないほど、実情に近い描写も組み込まれており、満足度が高いものでした。
【関連作品】
児童虐待、DVの影響等
・社会福祉協議会を舞台にしたドラマ『サイレント・プア』
里見涼は、東京の下町にある社会福祉協議会のCSWとして勤務し、高齢者や引きこもり、若年性認知症といった、社会の中で孤立している人々を支えようと奮起するが、涼自身にも絶望的な孤独感を味わう辛い苦しみを味わったことがあった。「人は何度でも生き直せる…」という信念を持った涼が、自らCSWとして救いの手を差し伸べた人々たちに支えられて生きていく姿を描く(wikipediaより)
豊中市社会福祉協議会がモデルになったドラマで、孤独や貧困に苦しむ地域の住民達と根気強く向き合うことで、社会復帰や自己実現を果たして行く過程が描かれています。
この作品の素晴らしいところは、各エピソードで登場した住民達が後に再登場し、共同しながら地域に溶け込んで行く姿が描かれているところです。
モデルになった勝部さんやその活動をまとめて書籍も張っておきます。
セーフティネット コミュニティソーシャルワーカー〈CSW〉の現場
- 作者: 豊中市社会福祉協議会
- 出版社/メーカー: ブリコラージュ
- 発売日: 2018/02/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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コミュニティソーシャルワークと社会資源開発―コミュニティソーシャルワーカーからのメッセージ
- 作者: コミュニティソーシャルワーク実践研究会
- 出版社/メーカー: 全国コミュニティライフサポートセンター
- 発売日: 2013/12/01
- メディア: 単行本
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ひとりぽっちをつくらない―コミュニティソーシャルワーカーの仕事
- 作者: 勝部麗子
- 出版社/メーカー: 全国社会福祉協議会
- 発売日: 2016/06/01
- メディア: 単行本
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