今回は社会福祉士国家試験問題でたまに見られる「不適切問題」についてご存知ない方のために、過去の歴史を含めて紹介します。
問題文や選択肢の表現があいまいであったり、誤植であったために、正答がなくなった場合は全員加点の扱いになります。
正解が二つ以上存在してしまった場合は、二つ以上の選択肢のいずれかを選んだ者が点数加点の処置をされます。
60人を超える試験委員が厳重にチェックしているはずなのに、そんなミスが起こるの!?と思われるかもしれませんが、それがかなりの頻度で起こっているんです。
近年では、第20回、22回、28回、31回試験で生じています。
他の国家試験では平成23年宅建試験、平成24年行政書士試験において、関連資格の福祉住環境コーディネーター試験2級第29回試験においても発生しました。
最新の第3回公認心理師試験においても複数正解が存在するとして、2問正解となり、第1回試験でも多数不適切問題が発生したということで、詫びの文章も出されることになりました。
kango.mynavi.jp
厚生労働省所轄の介護福祉士試験では過去に二回、第26回試験と29回試験に発生しています。全員加点と複数問正解という処置になりました。
保育士試験においては、不適切問題がしばしば起きるようで、逆転合格された方の体験談もあるくらいです。
精神保健福祉士試験においても、しばしば不適切問題が公表されます。
過去には試験終了後、受験者からの指摘によって発覚するケースもがありました(後日記事で紹介します)。
このような事情で、不適切問題の有無が試験の合否に関わってくるのは、公平な試験制度の有り方についても問題視されてくるため、試験委員は推敲を重ねて本試験作成に取り組んでいます。
それでも、150問もの試験量ですから、1、2問不適切問題が生じてしまうことがあるのです。
第28回試験においては、試験前と後でそれぞれ発覚された問題がありました。
試験後の不適切問題については、ネット上では一度も指摘している方はいませんでした。
予想外の発覚というのが特徴でした。
参考までに、第20回までは、○×の組み合わせ問題がありましたが、あまりにも不適切問題が多発したためだか、第21回から廃止されました。
第18回、第17回、第16回、第15回(追加合格の処置あり)において、下記のような連続した組み合わせ問題による不適切問題がありました。
A | B | C | D | |
1 | ○ | ○ | × | × |
2 | ○ | × | ○ | ○ |
3 | ○ | × | × | × |
4 | × | ○ | ○ | × |
5 | × | × | ○ | ○ |
22回で不適切問題になった選択肢として、以下のものがありました。
問題70 日本国憲法が保障する基本的人権と権利に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
3 拘留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けた者が,国に対してその補償を求めるのは,憲法が認める権利である。
不適切の理由:選択肢3については、憲法40条の抑留又は拘禁の規定を問う主旨であることから、不適切である。
日本語解釈による理由ではなく、そもそもの主旨が誤っているという点で、不適切と認められたようです。
正答がない解答として、全員加点処置をされています。
当時インターネット上では、既にこの問いは不適切問題だとして指摘されていましたが、実際にその通りになりました。
私が受験した第24回試験が終わった後も、不適切問題議論は合格発表日が過ぎた後もヒートアップしていました。
納得がいかずに、試験センターに問い合わせ、クレームを送ったという声もぼちぼち見られました。
それぞれの不適切問題候補が検証されていましたが、濃厚だと思われる設問が数問に絞られました。
最も可能性が高い出題として、共通科目の「指定管理者制度」についての問いでした。
指定管理者制度について、「委託」と記されており、正しくは「代行」「委任」のため不適切ではないかという見解が多く示されていました。
日本語表記の違いによって、意味が大きく変わってくるという観点です。
しかしながら、この問題を含めて、この年は不適切問題は皆無でした。
よほどの根拠がない限り、不適切問題と認定されないようです。
(第15回の問82のように要件が不明確で不適切となるケースもありましたが特例です)
不適切問題議論は、毎年のようにありますが、受験生にとって1点の重みが大きいだけに、正しい答え、および不適切問題の有無は死活問題ですよね。
実際に不適切問題が生じると、合格点が上がる可能性は高いです。
それは、全員加点もしくは複数回答正解によって総合点も上昇するからです。
中には、不適切問題があっても、合格点は変わらない、合格点・合格率を調整するために、割問になっている選択肢のいずれかを、状況に応じて決定しているという説もありますが、真相は試験実施機関のみぞ知ります。
また、28回試験の例だと、不適切問題の登場によって、0点になってしまった科目が没問によって1点追加となり、免れたという報告もありました。
不適切問題は試験制作側の不手際ということになりますが、受験生の命運を分ける問題でもあります。
今年は不適切問題についてはそれほど議論が激しい様子は見受けられませんが、何よりも合格発表日には一人でも多くの笑顔が咲き誇るように期待しています。