君のやっていることはキケンだぞ。
私がインターネットサイトで生きづらさに苦しんでいる方をサポートする活動を開始して1年が経過した頃、「夜回り先生」の名で有名な、水谷修さんの著書サイン会に参列したことがありました。
早いもので、あれから15年が経ちましたが、短い時間ながら、今でも水谷先生と会話した時のことが鮮明に残っています。
私の原点回帰とも言える出来事として深く刻まれているからです。
当時大学生だった私は、若者の為に命を懸けてまで尽力されている水谷先生ならば、私の活動を理解して励ましてもらえるのではないかという期待を込めていました。
著書では水谷先生の孤独な闘いについて描かれていますが、微力ながらも、生きることを苦しんでいる人々の一助になれるように日々模索している人間はここにもいる。
そう伝えたい思いで参列しました。
いよいよ水谷先生と話す番がやってきた時、気持ちの昂ぶりを抑えて最初に告げた内容はこうでした。
「私は今、自分のホームページを通して、明日に悩み、行き場を失っている方たちを支えられるような活動を続けています」
そしてその後に、
「私も少しでも世の中の苦しんでいる人たちのための力になり、水谷先生のように社会貢献するつもりです」
と、伝えるつもりでした。
しかし、私の発言を遮って先生がおっしゃったのが、
君のやっていることはキケンだぞ。
の第一声でした。
私は予想外の反応に言葉を失い、閉口する他ありませんでした。
私の反応をよそに、水谷先生は更に続きました。
インターネットを通じて追い詰められた若者たちが集まり、苦しみを語り合うのは非常にキケンだ。
そこに救いは存在しないし、彼らの心の闇を救ってあげられるのは素人では至極困難だ。
自分もホームページを運営していた手前よくわかるが、傍から見れば実際あたかも一人で相談者たちと向き合っているように見えるだろうが、バックには精神科医の全面的な指導と連携のもと活動しているんだ。
だから、素人が彼らに手を差し伸べるのは非常に難しい。下手すればミイラ取りがミイラになってしまうよ。キケンを冒さずに苦しくなったら彼らをオレのところに送ってくれ。
というものでした。(先生の言葉を私が自分なりに要約したものです)
私は返す言葉が見つからず、思っても見ない返答に、黙ってその言葉をかみ締める他ありませんでした。
サインを書き終えてもらい、何とも言えない気分でその場を立ち去ろうとしたところ、
無理するなよ。
と、最後の言葉を送ってくれました。
当時、水谷先生ならば、自分のやっていることを理解してくれて、励ましの言葉をかけてもらえるという期待があったので、その反動がショックとして残されました。
悩んでいる人が救いを求めて自分の元にやってきているから真摯に向き合っている。
それなのに、どうして自分の取り組みを評価してくれないんだ。
人と人とが心と心で向き合えば時間がかかっても回復すると信じている。
20代前半だった私には、それまで蓄積した活動実績から水谷先生の冷静な言葉に納得できないままでいました。
それから10年以上の月日が流れ、今だからこそ、先生がおっしゃっていた言葉の意味と、その重みをひしひしと感じています。
自分の弱みをや、誰にも話せない過去をさらけ出して、救いを求めてくれる人々に、本気で向き合わなければならない。
中には 精神疾患や発達障害を抱えていることから生きづらさを抱えていたり、幼少時代からDVを受け続けてきた方もいらっしゃいました。
私の対応によって、相手をますます追いつめてしまうリスクも兼ね備えているため、慎重に向き合ってきました。
そこには責任という二文字がついて回ったのです。
5500名を超える相談者様と接してきた中で、私は、後悔、反省、ふがいなさ、力不足を幾度となく痛感してきました。
あなたの言っていることは難しすぎて分かりません。
もっと自分を認めてほしかったのに。もういいです。
後は自分でどうにかします。さようなら。
1年間やり取りを続けてきた大学生が最後に残したその言葉は、今でも脳裏をよぎります。
彼が求めてきたのは、自分の行為の正当性の同調でしたが、あえて私は突き放したのです。それが彼の自立につながるという思いから、心を鬼にしてその選択を取ったのです。
他にも、
最期にあなたに出会えてよかった。
もう努力してもどうにもならない現実を知りました。
死ぬ決意ができました。さようなら。
という高校生の書き込みや、
恋人どころか友達すらいなくて、正規職員でもない自分には夢も希望もない。
生きる資格もない。
という、明日を見失った30代の悲痛な叫びを受け取る度に心が震えていました。
コロナ禍に入ってからは、雇用を打ち切られてしまい、明日を見失ってうなだれている20代の男性や、新型コロナウイルスに感染したことで、働きたくても働けないコンディションになられて立ち尽くされている方の声も寄せられるようになりました。
もう文字を媒介した相談援助は限界なのかもしれない。
悲痛な叫びを胸に受け止める度に、無気力感とやるせなさに支配されて、
「何のために自分は続けているのか」
「何が正しいのか」
という、堂々巡りの自問自答を数えきれないくらい繰り返してきました。
ただの自己満足、偽善行為なんじゃないかという疑念も幾度となく付きまといました。
正直、この15年の中で、もうこれ以上独りで抱え込むのは限界なんじゃないかという気持ちに陥ることも数百回以上もありました。
当時水谷先生がおっしゃっていた「一人でSOSを発信している人間と向き合うことの難しさやリスク」というものを日々感じるようになってきました。
発達障害、知的・身体障害、精神障害、被虐経験、家庭内不和、引きこもり、いじめ経験者、ニート等、
上記に上げた相談者達と社会福祉士として現場に携わるようになり7年が経ちますが、複雑な背景を知れば知るほど、一人で援助を展開することの危険性や限界を痛感しています。
私が助けてあげたい。役に立ちたい。
そんな思いが強すぎると相手を追い詰めてしまうどころか、自分自身が潰れてしまうのです。
水谷先生はミイラ取りがミイラになるという表現をおっしゃっていましたが、私自身も出口の見えない五里霧中状態で心がパンパンになってしまったことが一度や二度ではありません。
君のやっていることはキケンだぞ。
水谷先生のあの言葉がしきりに反芻します。
それでも、私はドロップアウトできませんでした。
私の言葉で傷つけてしまうかもしれない。いや、どれだけの人を無意識、意識問わずに追い詰めてしまったことだろうか。
そう考えると、胸が締め付けられるような気持ちになりますが、言葉は人を導く武器にもなるし、人を傷つける刃にもなり得る両面の怖さを常に噛み締めています。
世の中には、「炎上商法」と言って、人を追いやったり、傷つけるような言葉をあえて用いることで、人々からの注目を浴びて、自分の存在を広げようとするような行動を取る方もいます。
波紋を広げた第30回社会福祉士試験終了後に、大荒れした記事が生まれたことを以前お話したことがありますが、該当する記事をリリースした直前に、「もしかしたらかなり荒れるコメントが寄せられるかもしれない」という予想を立てていました。
結果は予想以上でしたが、予めそうなることが読めていたのにも関わらず、発信してしまったという当時の振る舞いがまさに炎上を狙ったのではないかと言われてしまえば、私にも功罪があるのだと自負しています。むしろ手柄というよりも、罪悪感の方が勝っていたと言えます。
試験のありかたについて見つめ直すきっかけになったという声もありましたが、それ以上に社会福祉士や対人援助職を目指される方や、現役の方が罵倒したり、されたり、怒りの声をこだまさせてしまった場を作り上げてしまったことに私はネットの怖さを肌で感じていました。
このように私は人一番感性が敏感で、そこまで悩む必要や抱える必要がないのに他者の苦しみや不安に共鳴しすぎして疲弊してしまうところがあります。
今ではHSPという概念が広く注目されるようになりましたが、私は十中八九その傾向があります。
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そんな敏感すぎるタイプの私がネットでの活動や福祉職には不向きだと自覚しているところもありますが、それでも、続けてこられたのは、こんな自分を必要としてくれる人がいて、その先に、「ありがとう」が返ってくるからです。
対人援助職には絶対的な正解が存在しないからこそ、常に悩み、迷路をさまようようなケースもありますが、自分が関わったことで少しでも一歩踏み出せれた方の生き様を見ていると、「辞める」という選択を進む理由がなくなるのです。
「人々とともに成長していく」というテーマを追い続けることに何より魅力を感じています。
新型コロナウイルスが蔓延したことで、それまでの常識が覆され、より正解のない複雑な社会に展開していくことが予想され、ますます対人援助職の難しさや課題が浮き彫りになってくるでしょう。
社会福祉士として支援を継続する上で大切な視点として、一人で抱え込まずに、行政、地域、学校、施設、医療との連携の大切さと、心理士や福祉士等が情報共有を密にして協働することの大切さを身にしみています。
このブログで出逢ったみなさんの存在も活動のモチベーションに大きく影響しています。
この15年、一人で活動してきたつもりでしたが、気が付けば私を支えてくれる同志や、仲間が傍にいてくださいました。
コロナ禍に入ってからは直接的なコミュニケーションを交わす機会は減ってしまいましたが、いざという時にこの絶対合格ブログにかけつけてくださるのです。
今年度試験直前に受験生への応援メッセージを募集したところ、かつての合格者の方が次々と私のもとに集まってくださって、絆を感じることができました。
みなさんが3月15日に 社会福祉士・精神保健福祉士試験に合格された後、協働できるような機会があれば素晴らしいと思いますし、その日が訪れることを楽しみにしています。
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