今回は、更生保護施設で活躍する社会福祉士の役割と現状についてまとめました。
第36回社会福祉士国家試験・第6回公認心理師国家試験範囲にも関係しているだけではなくて、今後該当機関での就業を検討されている方のお役に立てれば幸いです。
法務省所管の矯正機関
1.刑務所
2.少年院
3.保護観察所
都道府県が実施主体の機関
4.地域生活定着支援センター
1.刑務所
歴史
社会福祉士は刑務所から出所する高齢者や障害者の社会復帰支援を行います。
2004年度から一部の刑務所から始まり、2009年度から全刑務所に拡大しました。
雇用形態は週3程度の出勤で時間給、年単位契約の非常勤職員でしたが、2014年度より「福祉専門官」という常勤職員の新たな職種が設けられました。以下の58庁に配属されています(2020年度時点)。
刑務所
札幌、宮城、府中、名古屋、大阪、広島、高松、福岡
八王子、岡崎、大阪、北九州
高齢受刑者らの多い12庁に3年の任期で1人ずつ配置し、困難ケースを担当しています。
出所後の再犯を防ぐことが狙いです。
今後10年以内に全国計78カ所の施設での配置を目指しており、自立困難な受刑者の支援体制を強化し、再犯防止につなげます。
今後の動向法務省は、全刑務所への拡充とともに、常勤職員の配置を推進しています。
出所前の生活指導などに限界もあることから出所後に福祉支援が受けられないことも少なくなく、社会復帰が妨げられ結果として再び犯罪を起こす高齢者もいます。
法務省は「今後も
認知症などを発症した高齢受刑者や、知的・
精神障害を抱えた受刑者が増加することが予想される」(矯正局)と見立てており、出所後の適切な受け入れ先の確保が再犯防止に有効と判断し、刑務所などの刑事施設で
社会福祉士や
精神保健福祉士の常勤体制の確立を急ぐ方向です。
政府は2012年7月、再犯防止に向けた数値目標を初めて掲げ、「出所後2年以内に再び刑務所に入る人の割合(20.5%)を今後10年間で2割以上減らす」としました。
また、2013年12月には、「世界一安全な日本」創造戦略を
閣議決定。
2021年の
東京五輪開催に向けた治安対策の観点から、高齢者や障害者の再犯防止策も盛り込んでいることが影響しています。
更に詳しく知りたい方は
2.少年院
この情報は平成21年度の
犯罪白書から引っ張ってきているため(最新の平成27年度版
犯罪白書には該当情報が見当たらず)、少々情報が古めですが、令和2年度の情報では、社会福祉士が18名、精神保健福祉士が2名配置されています。
3.保護観察所(法務省設置法及び更生保護法に基づいて設置される法務省の地方支分部局)の社会復帰調整官
国家公務員の一般職の身分になります。
精神障害者の保健及び福祉等に関する専門的知識に基づき、
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人の社会復帰を促進するため、生活環境の調査、生活環境の調整、精神保健観察等の業務に従事します。
採用条件(令和4年度採用関東地方募集要項より)
(1) 医療観察制度の対象となる精神障害者の円滑な社会復帰に関心と熱意を有すること。
(2) ア 精神保健福祉士の資格を有すること、又は、
イ 精神障害者の保健及び福祉に関する高い専門的知識を有し、かつ、社会福祉士、保健
師、看護師、作業療法士、公認心理師若しくは臨床心理士の資格を有すること。
(3) 精神保健福祉に関する業務において5年以上の実務経験を有すること。
(4) 大学卒業以上の学歴を有すること、又は大学を卒業した者と同等と認められる資格を有するこ
と。この場合において、「大学を卒業した者と同等と認められる資格を有する」者は、平成23
年人事院公示第18号の2の一に該当する者とする。
社会復帰調整官
根拠法
主な対象者
仕事内容
生活環境の調査、生活環境の調整(退院地の選定・確保のための調整、退院地での処遇実施体制の整備)、処遇実施計画の作成及び見直し、精神保健観察の実施(継続的な医療を確保するための生活状況の見守り、必要な指導等)、ケア会議の実施等の業務を行います。
根拠法
更生保護法、一部
売春防止法に基づく保護観察を行う(5号観察)
主な対象者
少年から成人、高齢者まで全年齢
仕事内容
保護観察所へ配属された場合は、
家庭裁判所で保護処分決定を受けた者や、刑事施設から仮釈放された者の保護観察を実施します。そのほかにも、出所後の生活環境の調査や再犯防止に向けた取組みなど、幅広く活動します。
4.地域生活定着支援センター
平成24年度からは、職員数6名に対して、1名が
社会福祉士の有資格者です。
全国に一箇所設置されています(北海道のみ二箇所)。
業務内容
刑務所などの矯正施設入所者の中には、必要とする福祉の支援を受けてこなかったり、あるいは受けられなかった高齢者・障がい者や、帰る先を確保できないまま矯正施設を退所する高齢者・障がい者が多く存在していることが指摘されてきました。
そこで厚生労働省は、平成21年度から、このような矯正施設退所者を福祉につなげるため、保護観察所と協働して取り組む「地域生活定着支援センター」を各都道府県に整備する事業に着手し、平成23年度末、全都道府県に開設されました。
平成24年度からは、矯正施設退所後のフォローアップ業務や相談業務までを強化し、入所中から退所後まで一貫した相談支援を行う事業を実施しています。
令和3年度からは、刑事司法手続の入口段階にある被疑者・被告人等で高齢又は障がいにより自立した生活が困難な人に対する支援も開始されました。
全国地域生活定着支援センター協議会(全定協)では、このような福祉的支援を必要とする罪を犯してしまった高齢者や障がい者の安心した地域生活の実現及び定着を図るとともに、更生支援にかかる全国のセーフティネットの構築を目指しています。
具体的には、各都道府県の地域生活定着支援センターが日々直面している問題の改善に向けて、情報の共有化・支援業務の標準化の促進・支援体制の格差の軽減・支援業務の質の向上を目指し、実効性のある円滑な連携支援を可能にします。
また、国への要望をまとめたり、更生支援等にかかるスキルアップと人材育成のための研修を企画・実施するなど、その中枢となって各都道府県の地域生活定着支援センターを支援します。
活動趣旨 - 一般社団法人 全国地域生活定着支援センター協議会より
対象者
支援の対象者は、罪を犯した、あるいは罪に問われた高齢者や障害者で、次の項目に該当する「特別調整」もしくは「一般調整」対象などの方です。
特別調整・・・生活環境調整のうち、高齢(おおむね65歳以上)であり、又は障害を有する入所者等であって、かつ、適当な帰住予定地が確保されていない者を対象として、特別の手続に基づき帰住予定地の確保その他必要な生活環境の整備を行うものをいう。
一般調整・・・生活環境調整のうち、上記、特別調整以外の者。
まとめ
法務省が高齢者・障害者の出所者を受け入れる更生保護施設の福祉スタッフを倍増するなど体制強化を検討している背景は、
東京五輪が開催される2021年までに、居場所のない出所者を全体の3割(約2千人)減らす目標を決定し、「世界一安全な日本」を国際社会にアピールする狙いのため。
居場所がないまま釈放された出所者が再犯に至るまでの期間が短いというデータがあります(令和3年度の
犯罪白書によると、2019
年に刑務所を出所後、2年以内に再び罪を犯して入所した「再入率」は15.7%となり、2021年までに16%以下にするとの政府の数値目標を達成した。ただ、出所後に保護観察がつかない満期釈放者の再入率は23.3%で、仮釈放者の10.2%と2倍以上の開きがあった。)
社会福祉士などの資格を持つ福祉スタッフを配置する「※指定更生保護施設」を現在の57施設から全国の全更生保護施設(103施設)にほぼ倍増する財源を予算で概算要求する方針で、更生保護施設で出所者の自立を支援する非常勤職員1人1日当たり一定額が支給される委託費について、週3日が上限だった支給日数を5日に拡大する方針です。
更生保護のための
社会福祉士の活動の幅が広がり、その役割と効果が重要視されています。
※指定更生保護施設・・・出所後直ちに福祉による支援を受けることが困難な者は、一旦更生保護施設において受け入れ、福祉への移行準備及び社会生活に適応するための指導や助言を行うこととなりました。その役割を担うための施設。