今回は、前回同様に、本試験で通用する視点・テクニックについてです。
少し古いですが、2011年第23回社会福祉士国家試験午前共通科目「権利擁護と成年後見制度」問70からの出題です。
消費者契約法による「消費者契約」の消費者からの取り消しに関する次の記述のうち、正しいものを一つ選びなさい。
5の選択肢に着目してみます。
5.事業者が、消費者の恋心を利用して、「売り上げるために協力して欲しい」と言って商品を購入させた場合、購入した消費者は、消費者契約を取り消すことはできない。
ぱっと見ると、
「こういうケースって、身近でもよく聴くよな。このケースって、詐欺の典型的な例じゃん。惚れた弱みに付け込んでいて、こんなのが許されるわけない。
だまされた恋人は契約を取り消せるよ。これは×だ。」
惚れた人間に対しての弱者救済的観点から、「これは取り消せるよ」なんて思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの肢が正しい答えになっています。
この問題は、「消費者契約法第4条1項~3項」が根拠となっています。
5が正解の理由は、「売り上げを出すために協力してほしい」という依頼は、違法な勧誘ではないので、取り消せないというものです。
このように、情に訴えかけてくるような問題は、要注意です。
第28回社会福祉士試験より
問79「権利擁護と成年後見制度」科目からの出題です。
問題 79 父母の離婚に伴い生ずる子(15 歳)をめぐる監護や養育や親権の問題に関 する次の記述のうち,適切なものを 1 つ選びなさい。
1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。
2 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。
3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。
4 家庭裁判所は,父母の申出によって,離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。
5 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。
正解は2です。
一見、4が正解のようにも思えますが、ひっかけです。
子どものためには、夫婦別れた後も共同で親権を有している方が利益が生まれるようになるかもと勘が働かれるかもしれませんが、不正解です。
婚姻中は共同親権ですが、離婚後はどちらか一方に定めなければなりません。
アメリカやヨーロッパの海外ドラマを見ていると、離婚後の夫婦が別々に生活をしていても、子どもへの共同親権を行使しているようなシーンが用意されていますが、日本の民法では認められていません。
2が正解の根拠は、民法766条2項に規定されています。
1〜5までの選択肢は、下記のように民法の条文と家事事件手続法に規定されてます。
子を養育(さらに教育)することを監護と言い、親権はその内容として子を監護する権利を有する。未成年子がいる場合、父母の婚姻中は父母が共同して親権を行使する(818条3項―共同親権)。したがって、子の監護(養育)も父母が共同して行う。しかし、父母が離婚するときには、父母のいずれか一方の単独親権となるから(819条)、離婚後の子の監護について取り決めておく必要が生じる場合がある。離婚後の子の監護に関して取り決めが必要となる事項として、子の監護者の決定や親子間の交流(面会交流)、監護に要する費用(養育費)の分担などがある(766条1項前段参照)。
父母は、離婚後の子の監護に関する事項を必要に応じて協議で定める(766条1項、771条)。父母の協議が調わないときや協議をすることができないときは、家庭裁判所が定める(766条2項)。この処分は審判によってなされるが、家庭裁判所は、当事者の陳述を聴くほか、子が15歳以上であるときにはその子の陳述を聴かなければならない(家事事件手続法152条2項)。
他の視点では、昨日の記事のように、選択肢同士を並べてみて共通キーワードや常識で解答を導き出すということもできます。
第32回社会福祉士試験事例問題より
権利擁護と成年後見制度
問題 78 事例を読んで,次の記述のうち,正しいものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Aさんは,判断能力が低下している状況で販売業者のU社に騙され,50 万円の価値しかない商品をU社から 100 万円で購入する旨の売買契約書に署名捺印いんした。U社は,Aさんに代金 100 万円の支払を請求している。
1 Aさんにおいて,その商品と同じ価値の商品をもう一つ引き渡すよう請求する余地はない。
2 Aさんにおいて,消費者契約法上,Aさんの誤認を理由とする売買契約の取消しをする余地はない。
3 Aさんにおいて,商品が引き渡されるまでは,代金の支払を拒む余地はない。
4 Aさんにおいて,U社の詐欺を理由とする売買契約の取消しをする余地はない。
5 Aさんにおいて,契約当時,意思能力を有しなかったとして,売買契約の無効を主張する余地はない。
全ての選択肢が「余地がない」と否定系で書かれているので、正しいものを一つ選ぶというところで、ぱっと見るとどれが正解がわかりづらく感じるかもしれません。
選択肢を見ると見られるキーワード群のように、この出題の論点は、「売買契約の取り消し・無効・拒否」についてですので、「1」のみ同じ価値のあるものを要求できるかどうかについてで、ピントが外れていることに気づけば消去法で解答することができます。
第33回社会福祉士試験事例問題より
次の出題は、情に訴えつつ、誰が誰にして明確な責任を追及できるのか、負う必要があるのかを理解しておくことが着眼点になっています。
問題 80 事例を読んで,関係当事者の民事責任に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Y社会福祉法人が設置したグループホーム内で,利用者のHさんが利用者のJさんを殴打したためJさんが負傷した。K職員は,日頃からJさんがHさんから暴力を受けていたことを知っていたが,適切な措置をとらずに漫然と放置していた。
1 Hさんが責任能力を欠く場合には,JさんがK職員に対して不法行為責任を追及することはできない。
2 JさんがK職員に対して不法行為責任を追及する場合には,Y社会福祉法人に対して使用者責任を併せて追及することはできない。
3 JさんはY社会福祉法人に対して,施設利用契約における安全配慮義務違反として,損害賠償を請求することができる。
4 Hさんに責任能力がある場合に,JさんがY社会福祉法人に対して使用者責任を追及するときは,Jさんは,損害の 2 分の 1 のみをY社会福祉法人に対して請求することができる。
5 Y社会福祉法人が使用者責任に基づいてJさんに対して損害賠償金を支払った場合には,Y社会福祉法人はK職員に対して求償することができない。
正解は3です。
このような事例は決して試験問題上だけの机上の空論レベルではなくて、現場で類似ケースも存在します。
見て見ぬふりをしている職員への戒めであったり、法律でどう裁かれるか知っておくべしであると、問題作成者達からのメッセージを感じます。
介護事業者は、通常、契約上の責任として、サービスの提供にあたり、契約者の生命、身体の安全に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っています。
なお、介護事業者の安全配慮義務は、介護事業者であることから当然に認められるものではなく、介護事業者と利用者との契約内容から、介護事業者がどのような安全配慮義務を負っているのかを具体的にします。
ただし、介護事業の性質上、ほとんどの場合で(程度の違いはあるとしても)、安全配慮義務を負っていると認定されることになると思われます。
そして、事故の発生を予見することが可能であり、事故の発生を回避することも可能だったにもかかわらず、何ら防止策を講じることがなかったような場合には、安全配慮義務に違反したといえます。
キーワードは「情ではなくて、制度や法令に則って取捨選択」です。
ただし、非情な選択を取ることが絶対的な正解ではないとも言えるので要注意です。
第34回社会福祉士試験事例問題より
専門科目問106で下記のような問題が出されました。
問題 106 事例を読んで,V児童養護施設のK児童指導員(社会福祉士)による退所時の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Lさん(18 歳)は 5 歳の時に父親が亡くなり,その後,母親と二人で暮らしていた。
母親は生活に追われ,Lさんへのネグレクトが継続したことから,児童相談所
が介入し,翌年,LさんはV児童養護施設に入所した。そして,Lさんが 10 歳の時に母親は再婚し,相手の子を出産した後も,Lさんを引き取ることなく疎遠になった。Lさんは今春,高校を卒業することになり,V児童養護施設の退所者が多く就職している事業所に就職が決まったため,施設を退所することになった。退所に際して,LさんにK児童指導員が面接を行った。
1 退所後は人に頼ることなく,自ら問題を解決するように伝える。
2 退所後に相談があるときは,児童相談所に行くように伝える。
3 職場での自律的な人間関係を尊重するため,施設から職場には連絡を取らないと伝える。
4 施設が定期的に行っている交流会への参加を促す。
5 母親のことは,あてにせず関わらないように伝える。
「情で選ばずに、非情な選択にする」式で選ぶと、1、3、5に絞られます。
2は児相の対象年齢から外れてしまうため不正解と見分けられますが、4はまさに情が絡むような選択肢なので、間違いだと思ってしまうかもしれません。
しかしながら、正解は情が絡む4です。
ポイントは、非情になることだけに着眼するのではなくて、試験上では、あくまでも「制度や法令に則って」答えを導き出すことが求められています。
上記の出題では制度に則れない場合(2は制度とも言えますが)、「退所後支援」「つながり」の視点を持つことが大事です。
これらの出題は、試験だけの机上の空論ではなくて、現場の対応にしても共通しているとは思います。
最後に、最新の第35回試験事例問題を4問見て終わりにします。
第35回社会福祉士試験事例問題より
下記4問とも、「決めつけ」「安易な励まし」「一方的(SWの独断)な支援提案」「強行的な手続き」は共通して不正解になっています。
問題 83 事例を読んで,消費者被害に関する次の記述のうち,X地域包括支援センターのC社会福祉士の対応として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Dさん(70 歳)は,認知症の影響で判断能力が低下しているが,その低下の程度ははっきりしていない。宝石の販売業者Yは,Dさんが以前の購入を忘れていることに乗じ, 2 年にわたって繰り返し店舗で 40 回,同じ商品を現金で購入させ,その合計額は 1,000 万円に及んでいた。E訪問介護員がこの事態を把握し,X地域包括支援センターに所属するC社会福祉士に相談した。
1 Dさんのこれまでの判断を尊重し,Dさんに対し,今後の購入に当たっての注意喚起を行う。
2 Dさんの意向にかかわりなく,宝石の販売業者Yと連絡を取り,Dさんへの宝飾品の販売に当たり,今後は十分な説明を尽くすように求める。
3 Dさんの判断能力が著しく不十分であった場合,C社会福祉士自ら保佐開始の審判の申立てを行う。
4 クーリング・オフにより,Dさん本人にその購入の契約を解除させる。
5 これらの購入につき,消費者契約法に基づく契約の取消しが可能かを検討するため,Dさんのプライバシーに配慮して,消費生活センターに問い合わせる。
正解5
問題 108 事例を読んで,W認知症疾患医療センターで働くB若年性認知症支援コーディネーター(社会福祉士)のクライエントへの対応として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Cさん(45 歳,男性)は,仕事の失敗が増えたことを思い悩み,「周りに迷惑をかけたくない」と 4 か月前に依願退職した。その 2 か月後にW認知症疾患医療センターで若年性認知症と診断された。今月の受診日にCさんが相談室を訪れ,「子どももいるし,教育にもお金がかかります。妻も働いてくれているが,収入が少なく不安です。働くことはできないでしょうか」と話すのを,B若年性認知症支援コーディネーターはCさんの気持ちを受け止めて聞いた。
1 他の若年性認知症の人に紹介したものと同じアルバイトを勧める。
2 認知症対応型通所介護事業所に通所し,就労先をあっせんしてもらうよう勧める。
3 障害年金の受給資格が既に生じているので,収入は心配ないことを伝える。
4 元の職場への復職もできますから頑張りましょうと励ます。
5 病気を理解して,対応してくれる職場を一緒に探しませんかと伝える。
正解5
問題 117 事例を読んで,Z放課後等デイサービスのG児童指導員(社会福祉士)による,Hさんへの面接に関する次の記述のうち,適切なものを 2 つ選びなさい。
〔事 例〕
Hさん(28 歳,女性)は,長女Jさん( 8 歳)と二人暮らしで,Jさんには発達障害がある。ある日Jさんが,通っているZ放課後等デイサービスで,他の子のおやつを食べてしまった。Jさんは,「お腹がすいて我慢ができなかった」と訴えた。G児童指導員の呼び掛けに応じた面談でHさんは,「Jが大事で頑張っているけど,
子育てがちゃんとできない自分が嫌」と話した。
1 「Jちゃんと少し距離を置くために,施設入所も検討してみませんか」と意向を聞く。
2 「Jちゃんを大事だと思って,あなたはよく頑張っていますね」と承認する。
3 「家事を手伝ってくれる子育て短期支援事業を利用してはどうですか」と意向を聞く。
4 「子育ての方法を教えてくれるペアレント・トレーニングを受けるという方法もありますよ」と情報提供する。
5 「Jちゃんにとって大事なお母さんなんだから,しっかりしましょう」と励ます。
正解2と4
問題 146 事例を読んで,福祉事務所のK生活保護現業員(社会福祉士)の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Lさん(28 歳)は,両親(父 68 歳,母 66 歳)と同居し,両親の基礎年金と父のアルバイト収入により, 3 人家族で生活している。Lさんは,健康状態に問題があるようには見えないにもかかわらず,仕事をせずに自宅に引き籠もる生活を数年続けている。世帯主である父親が病気で入院し,蓄えも尽き,医療費の支払いも困難になったため,Lさん家族は 1 か月前から生活保護を受けるようになった。担当のK
生活保護現業員は,Lさんに対し,面談を行うなどして就労を促しているが,Lさんは,体調が優れないことを理由に働こうとしない。そこで,K生活保護現業員は,次の段階としてLさんにどのような対応をとるべきか,検討することにした。
1 生活保護現業員による指導・指示に従わないことを理由とする保護の停止に向けて,書面で就労を促す。
2 Lさんを世帯分離して,保護の必要性の高い父親と母親だけに保護を適用する。
3 医療機関での受診を促し,その結果を基にケース診断会議等によりLさんの就労阻害要因を探る。
4 早急に仕事に就くという自立活動確認書を作成するようLさんに命じる。
5 不就労がこのまま継続すると,稼働能力の不活用により保護の打ち切りが検討されることになる旨を説明し,Lさんに就労を促す。
正解3
最新の第35回試験事例問題の傾向として、クライエントを尊重し、気持ちを汲み取ってねぎらうような選択や、SW独自の判断ではなくて、多職種・組織の会議を開いて方針を決定するというような選択が正答でした。
実際に、机上の空論でなくて、現場で長年携わっている私から見ても、独自の判断で支援を行うことの危険性や、一方的な提案を行ってしまっている場面を多々目にすることがあるので、実務にも共通する視点であることがうかがえました。
第36回試験でも形を変えて問われる可能性がありますが、着目点は共通していると思われます。