今回は本試験テクニック関連で、要注意なポイントについて扱いました。
第23回社会福祉士国家試験午前共通科目「権利擁護と成年後見制度」問70からの出題です。
消費者契約法による「消費者契約」の消費者からの取り消しに関する次の記述のうち、正しいものを一つ選びなさい。
肢の中で、5の選択肢を見ると、
5.事業者が、消費者の恋心を利用して、「売り上げるために協力して欲しい」と言って商品を購入させた場合、購入した消費者は、消費者契約を取り消すことはできない。
となっています。
ぱっと見ると、
「こういうケースって、身近でもよくあるんだよな~。
ってかこれ詐欺の典型的な例じゃん。
惚れた弱みに付け込むなんて、マインドコントロールさせてるみたいでこりゃおかしいよ。
こんなのが許されるわけない。
だまされた恋人は契約を取り消せるよ。これは×だ。」
なんて、購入者の恋人の弱者救済的観点から、「これは取り消せるよ」なんて思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの肢が正解(○)になっています。
この問題は、「消費者契約法第4条1項~3項」が根拠となっています。
5が正解の理由は、「売り上げを上げるために、協力してほしい」という依頼は、違法な勧誘ではないので、取り消せないというものですが、このように、情に訴えかけてくるような問題は、要チェックです。
翌年の第24回の午後専門科目「更生保護制度」問150においても、類似選択肢が見られました。
保護観察処分にあった加害少年と、被害者(Nさん)に対する被害者担当官の最も適切な対応について問われました。
3の選択肢を見てください。
3.Nさんが加害者側から謝罪も被害弁償も受けていないことを知り、保護観察所にNさんを呼んで保護者と面接する機会を設けた。
やはり一見すると、情をくみ取った担当官の対応は、適切なように思えますが、正解は別の選択肢にある「心情等伝達制度を利用することを助言する」でした。
続いて第28回社会福祉士本試験問79「権利擁護と成年後見制度」科目からの出題です。
問題 79 父母の離婚に伴い生ずる子(15 歳)をめぐる監護や養育や親権の問題に関 する次の記述のうち,適切なものを 1 つ選びなさい。
1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。
2 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。
3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。
4 家庭裁判所は,父母の申出によって,離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。
5 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。
正解は2です。
一見、4が正解のようにも思えますが、ひっかけです。
子どものためには、夫婦別れた後も共同で親権を有している方が利益が生まれるようになるかもと勘が働かれるかもしれませんが、不正解です。
婚姻中は共同親権ですが、離婚後はどちらか一方に定めなければなりません。
アメリカやヨーロッパの海外ドラマを見ていると、離婚後の夫婦が別々に生活をしていても、子どもへの共同親権を行使しているようなシーンが用意されていますが、日本の民法では認められていません。
2が正解の根拠は、民法766条2項に規定されています。
ちなみに、1〜5までの選択肢は、下記のように民法の条文と家事事件手続法に規定されてます。
子を養育(さらに教育)することを監護と言い、親権はその内容として子を監護する権利を有する。未成年子がいる場合、父母の婚姻中は父母が共同して親権を行使する(818条3項―共同親権)。したがって、子の監護(養育)も父母が共同して行う。しかし、父母が離婚するときには、父母のいずれか一方の単独親権となるから(819条)、離婚後の子の監護について取り決めておく必要が生じる場合がある。離婚後の子の監護に関して取り決めが必要となる事項として、子の監護者の決定や親子間の交流(面会交流)、監護に要する費用(養育費)の分担などがある(766条1項前段参照)。
父母は、離婚後の子の監護に関する事項を必要に応じて協議で定める(766条1項、771条)。父母の協議が調わないときや協議をすることができないときは、家庭裁判所が定める(766条2項)。この処分は審判によってなされるが、家庭裁判所は、当事者の陳述を聴くほか、子が15歳以上であるときにはその子の陳述を聴かなければならない(家事事件手続法152条2項)。
また、以前記事に取り上げたように、選択肢同士を並べてみて共通キーワードや常識で解答を導き出すということもできます。
第32回社会福祉士試験
権利擁護と成年後見制度
問題 78 事例を読んで,次の記述のうち,正しいものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Aさんは,判断能力が低下している状況で販売業者のU社に騙され,50 万円の価値しかない商品をU社から 100 万円で購入する旨の売買契約書に署名捺印いんした。U社は,Aさんに代金 100 万円の支払を請求している。
1 Aさんにおいて,その商品と同じ価値の商品をもう一つ引き渡すよう請求する余
地はない。
2 Aさんにおいて,消費者契約法上,Aさんの誤認を理由とする売買契約の取消し
をする余地はない。
3 Aさんにおいて,商品が引き渡されるまでは,代金の支払を拒む余地はない。
4 Aさんにおいて,U社の詐欺を理由とする売買契約の取消しをする余地はない。
5 Aさんにおいて,契約当時,意思能力を有しなかったとして,売買契約の無効を
主張する余地はない。
全ての選択肢が「余地がない」と否定系で書かれているので、正しいものを一つ選ぶというところで、ぱっと見るとどれが正解がわかりづらく感じるかもしれません。
選択肢を見ると見られるキーワード群のように、この出題の論点は、「売買契約の取り消し・無効・拒否」についてですので、1だけが同じ価値のあるものを要求できるかどうかについてで、ピントが外れていることに気づけば消去法で解答することもできます。
最後は第33回社会福祉士試験問題からです。
この出題は、情に訴えつつ、誰が誰にして明確な責任を追及できるのか、負う必要があるのかを理解しておく必要性が着眼点になっています。
問題 80 事例を読んで,関係当事者の民事責任に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Y社会福祉法人が設置したグループホーム内で,利用者のHさんが利用者のJさんを殴打したためJさんが負傷した。K職員は,日頃からJさんがHさんから暴力を受けていたことを知っていたが,適切な措置をとらずに漫然と放置していた。
1 Hさんが責任能力を欠く場合には,JさんがK職員に対して不法行為責任を追及することはできない。
2 JさんがK職員に対して不法行為責任を追及する場合には,Y社会福祉法人に対して使用者責任を併せて追及することはできない。
3 JさんはY社会福祉法人に対して,施設利用契約における安全配慮義務違反として,損害賠償を請求することができる。
4 Hさんに責任能力がある場合に,JさんがY社会福祉法人に対して使用者責任を追及するときは,Jさんは,損害の 2 分の 1 のみをY社会福祉法人に対して請求することができる。
5 Y社会福祉法人が使用者責任に基づいてJさんに対して損害賠償金を支払った場合には,Y社会福祉法人はK職員に対して求償することができない。
正解は3です。
このような事例は決して試験問題上だけの机上の空論レベルではなくて、現場で類似ケースも存在します。
見て見ぬふりをしている職員への戒めであったり、法律でどう裁かれるか知っておくべしであると、問題作成者達からのメッセージを感じます。
介護事業者は、通常、契約上の責任として、サービスの提供にあたり、契約者の生命、身体の安全に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っています。
なお、介護事業者の安全配慮義務は、介護事業者であることから当然に認められるものではなく、介護事業者と利用者との契約内容から、介護事業者がどのような安全配慮義務を負っているのかを具体的にします。
ただし、介護事業の性質上、ほとんどの場合で(程度の違いはあるとしても)、安全配慮義務を負っていると認定されることになると思われます。
そして、事故の発生を予見することが可能であり、事故の発生を回避することも可能だったにもかかわらず、何ら防止策を講じることがなかったような場合には、安全配慮義務に違反したといえます。
キーワードは「情ではなくて、制度や法令に則って取捨選択」です。
ただし、非情な選択を取ることが絶対的な正解ではないとも言えるので要注意です。
最新の第34回社会福祉士試験専門科目問106で下記のような問題が出されました。
問題 106 事例を読んで,V児童養護施設のK児童指導員(社会福祉士)による退所時の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Lさん(18 歳)は 5 歳の時に父親が亡くなり,その後,母親と二人で暮らしていた。
母親は生活に追われ,Lさんへのネグレクトが継続したことから,児童相談所
が介入し,翌年,LさんはV児童養護施設に入所した。そして,Lさんが 10 歳の時に母親は再婚し,相手の子を出産した後も,Lさんを引き取ることなく疎遠になった。Lさんは今春,高校を卒業することになり,V児童養護施設の退所者が多く就職している事業所に就職が決まったため,施設を退所することになった。退所に際して,LさんにK児童指導員が面接を行った。
1 退所後は人に頼ることなく,自ら問題を解決するように伝える。
2 退所後に相談があるときは,児童相談所に行くように伝える。
3 職場での自律的な人間関係を尊重するため,施設から職場には連絡を取らないと伝える。
4 施設が定期的に行っている交流会への参加を促す。
5 母親のことは,あてにせず関わらないように伝える。
「情で選ばずに、非情な選択にする」式にしてしまうと、1、3、5に絞られます。
2は児相の対象年齢から外れてしまうため、不正解と言えて、4はまさに情が絡むような選択肢なので、間違いだと思ってしまうかもしれません。
しかしながら、正解は情が絡むこの4です。
ポイントは、非情になることだけに着眼するのではなくて、試験上では、あくまでも「制度や法令に則って」答えを導き出すことが求められています。
上記の出題では制度に則れない場合(2は制度とも言えますが)、「退所後支援」「つながり」の視点を持つことが大事です。
これらの出題は、試験だけの机上の空論ではなくて、現場の対応にしても共通しているとは思います。
第35回試験で「情に訴えかけてくる」制度上の問題が出題されたら、惑わされないように切り抜けてください。