今回は、精神保健福祉士試験と公認心理師試験を受験される方に向けてお勧めの漫画を紹介したいと思います。
精神科医が主人公である『シュリンク~精神科医ヨワイ~』です。
2024年4月28日時点で、12巻まで刊行されていますが、1巻毎に発達・精神障害等を患った当事者が登場しています。
例えば、パニック障害、産後うつ、パーソナリティ障害、アルコール依存、薬物依存、自閉症スペクトラム障害等、試験に登場する障害当事者の観点から、生きづらさや快復するまでの過程を描いています。
うつ病と双極性障害の違いや、自助グループの実態、WAIS知能検査の実施場面等が視覚的に描かれていて、問題集や参考書ではイメージしにくい用語が浸透しやすいです。
また、作中には精神保健福祉士や保健師が登場し、連携支援や各専門職の葛藤、苦悩も描かれています。
福祉職の現場にいる私から見ても、この作品は単なるフィクションではなくて、現場の実態を緻密に取材をしていて、現実に即した作品として構成されているように感じています。
そのため読んでいて業務に関連しているようなケースや描写が飛び込んできて心理的に重くとらえるようになってしまったり、自分自身の課題としてキツク感じる場面もありましたが、最終的にハッピーエンド(再生)につながるような展開ですので、安心して読めます。
インフルエンサーのゆうこすさん(当時28歳)が2年前に、SNSでの誹謗中傷によって精神疾患(パニック障害)を抱えるようになり、初めて精神科を受診するきっかけになったのが、このシュリンクを読んでからだと動画の中で語っていました。
このシュリンクは、今年の8月に全3回の実写ドラマ化することでも話題になっています。
3年前には第5回さいとう・たかを賞を受賞しています。
■ 選考委員コメント
□ 池上遼一 人間心理を微細に描いたストーリー。決して他人事とは思えない似た症状を感じる読者も少なからずおられるかもしれない。爽やかな画風で描かれる医師の人柄のように、あたたかい包容力に癒されているような読後感が味わえる。
□ 佐藤優 今まさにコロナ禍で心を苦しめている人が、手を伸ばしたであろう作品。精神病に対して一つの学説に偏らずに、原作家、作画家、編集者が一つひとつのケースについて考え、納得したものを描いている。理屈っぽくない点も良かった。
□ 長崎尚志 非常に現代的なテーマ。よく調べられており、漫画としてだけではなく、救いを求めて読んでいる人も多いのではないか。漫画の可能性を広げた作品。ドラマチックな部分には欠けているが、これで良いと思う。
□ やまさき十三 絵にしにくい心の闇の世界を、ライターと作画家がコラボして描くことで、精密に、そして簡潔に読み手の心に伝わる作品となっている。苦しみと感動をわかち合うという漫画の新しい地平を拓いた。
「患者に寄り添って支えになること」を重視する主人公の精神科医の姿勢からは、支援者としての大切なスタンスについても再認識されます(最も現実はヨワイ先生のように実践しようと思ってもそう簡単ではないわけですが)。
受験生だけではなくて、支援者や当事者にもご覧になっていただきたい作品です。