終わった・・・・・・。
試験全体の手ごたえでは、どう考えても合格ラインに到達している自信はありませんでした。
解き終えた感触でそう悟ったのは、再受験の経験から生じたものでした。
今年もまたダメだったか。2度あることは3度ある。
2011年の秋道、すっかり肩を落としながら、ため息交じりで帰宅の途についていました。
宅建は法律の登竜門的資格。
勉強を開始する前には、三か月もあれば、独学でも容易く受かるものだと想像していました。
気が付けばこれで3年目。
まさかこれほど手こずる試験になるとは、完全に想定外でした。
自分のやり方では独学合格は不可能なのかもしれない。
もう宅建試験には合格できないと見切って、今年限りでドロップアウトした方が身のためかもしれない。
何度も何度も自分の限界を痛感していました。
帰り道で、完全に不合格モードに切り替わった私は、宅建3年間が走馬灯のように流れて、何とも言えない虚無感に支配されていました。
自分には宅建試験は向いていなかったんだ。
そう納得させる他、沈んだ心を制御できませんでした。
それでも、合格へのわずかな希望を消せずにいた私は、毎夜、新しい情報を暗中模索しながら、心を鎮めようともがいていました。
1年目の試験は完全に合格レベルに達しておらず、再受験の2年目は、合格点まであと3点。
そして満を持した3度目の挑戦で、卒業を決めるつもりでした。
自己採点結果、心の中では、
「あと1点さえ取れていれば、あんな凡ミスさえしなければ、こんなに不安になることはなかったのに」
と、堂々巡りを繰り返していました。
終わったんだし、女々しくて、そんなちっぽけなことを引きずってないで、気持ちを切り替えなよ!
情報を模索する過程で、時にはこのような言葉を耳にすることもありました。
言ってることは理屈では分かるのです。
でも、当事者でないと、この不安な気持ちは共感したり、理解できないものなのですよね。
「合格判定会議が終わりました。極秘情報によると、今年の合格点は38点です(過去最高は約7割である50点中の36点)」
ネット上ではこのような一例以外でも、合格点が8割ほどになるという情報も錯綜していました。
今年の試験で8割取れないのならば、合格する価値がないという無慈悲な言葉も見かけました。
そのたびに私の中で絶望感が増していくのを抑制することが出来ませんでした。
そんな首の皮一枚のような日々をなんとか潰されずに過ごしていた私に追い打ちをかけるかのように、更なる動揺が襲いました。
合格発表日まで1週間と迫り、カウントダウンを切ったある日、突然何の前触れもなく試験センターから、「没問発表」が待っていたのです。
問題文の誤植によるいわゆる不適切問題の発表です。
これにより受験生に+1点措置がなされ、ボーダーが上昇することが免れない事態に立たされました。
併せてボーダー予想を立てていた多くの学校や講師が上方修正を加えました。
土壇場で緊張がピークに達した合格発表前夜、週刊住宅オンラインが日付変更ともに、合格率・合格ラインをフライング発表したのです。
「宅建試験、合格ラインは36問(史上最高点)」
という非情な数字タイトルを目の当たりにした時は、真っ青になりました。
この瞬間、一ヵ月以上も騒がれてきたボーダー予想議論に終止符が打たれ、一瞬にして現実を突き付けられるのです。
私の自己採点は何を隠そう36点だったのです。
マークミスを犯していれば、割問が外れれば一貫のアウトです。
一生のうちで狙って取れるような状況ではありません。
しかしながら、私のようにボーダージャストの受験生は少なくはないようで、彼らはネット上でひたすら祈りを繰り返していました。
もちろん当事者の私も最後までかすかな期待を捨て切れずに、朝までほぼ一睡もできないまま起きていました。
時は刻々と過ぎていきます。
8時20分頃になると、親には、
「今年も落ちたと思う」と言い残して、出勤のために家を出ました。
「また来年も受ければ良いじゃん」と、希望を失いつつある私に言葉を返してくれました。
この気持ちを抱えたまま職場に向かうことほど足取りが重いものはありませんでした。
いつもの駅のホームに着いて間もなく、携帯に母親からの着信が鳴りました。
「忘れ物でもしたのかな」と思いながら複雑な気分で出ると、
「なんか郵便局から宅建の通知みたいなものが届いたけれど」
と、寝耳に水の発言を聴かされました。
一瞬にしてそれが何を意味をしているかを理解した時には、朝の通勤ラッシュの人ごみをよそに、猛ダッシュで踵を返しました。
あの時の私はたとえるならば、人類最速の男“ウサイン・ボルト”の如く、翼を広げたような感覚で全力ダッシュしていました。
百聞は一見にしかずです。
家に戻ることで遅刻してしまう可能性もありましたが、もはや理性が飛んでいました。
時間にして3分くらいで自宅に着くと、神棚に“電話で知らされた正体”が飾ってありました。
この瞬間、合格を実感したのです。
石の上にも3年。まさに3度目の正直でした。
相対評価という共通点から、合格ラインが最後の最後まで分からない宅建試験の特徴を見ると、社会福祉士試験に共通しているところがあります。
受験までのあと努力と忍耐の軌跡と、合格発表までの45日間はどれも絶対に無駄ではありません。
かつての私のように、不安とそれだけ向き合っているからこそ、合格のご褒美が舞い降りますように、みなさん一人一人の心願成就を込めて今回の記事を終えます。