「GTO」「鈴木先生」「センセイ君主」等、これまで数多くの教師物をテーマにした学園漫画が存在していますが、この作品は「倫理」の教科をテーマに使うことで、生きることや学ぶことについて見つめ直すことができる作品となっています。
高校時代に倫理を科目として学ばれた方はどれだけいらっしゃるでしょうか。
私はこの漫画を通して初めて倫理の断片を知るきっかけにもなりました。
主人公である倫理の教師高柳先生は、倫理について下記のように生徒たちに説明しています。
倫理は、学ばなくても将来困る事はほぼ無い学問です。
地理や歴史の様に生活する上で触れる事は多くないし、数学の様な汎用性も英語の様な実用性もありません。
この授業で得た知識が役に立つ仕事はほぼ無い。この知識がよく役に立つ場面があるとすれば、死が近づいた時とか、倫理は主に自分がひとりぼっちの時に使う。
(中略)
人間関係がうまくいかない。他人を羨んで妬んでうまく生きる事が出来ない。よりよい生き方を考える。
悩みが絶えず苦しい・・・憂鬱・・・私は何の為に生きている?昔の哲学者たちは生涯をかけ悩み続けた。幸せとは何か。(中略)
「死にたい」「いのちとは何か」
どうですか。別に知らなくてもいいけれど知っておいた方がいい気はしませんか。
1巻P17〜20より引用
生徒と教師の恋愛という禁断のテーマについて触れていたり、SNSにのめり込んでいる女子高生に「社会的な人格=ペルソナ」という例えで諭したり、家庭の愛に恵まれない生徒に対して倫理の知識をもとに心を解して行く物語です。
倫理の知識さえ用いれば万事解決するのかと言えばそうではありません。
全ての生徒には平等に接しなければいけない、特別視はしては行けないというジレンマを抱えている高柳先生の葛藤も描かれています。
この漫画を描くきっかけになった出来事として、作者の叔母さんが自死をされたというエピソードが巻末に描かれていました。
鬱病を患い、服薬をして仕事にも就いていなかったようですが、亡くなる1週間前に自殺の準備として倫理の教科書と哲学書を読み漁っていたそうです。
心の内を誰にも吐露できずに、必死に自分を救ってくれる言葉を探していたこと、生きるための勉強の跡だったと振り返っています。
人の心が単純でないことを知った作者にとっては、倫理をテーマにした本作を手がけるモチベーションになっているようです。
受験勉強を続けていて「何のために勉強をする必要があるのか」「対人援助職は誰のためになるのか」と漠然とした気持ちに支配されるようになった時こそオススメの一冊です。