社会福祉士や精神保健福祉士試験勉強が苦痛になる瞬間の一因として、「勉強内容が受かるために覚えなければならないから」と感じる場面があるかもしれません。
社会調査や精神疾患等の分野は、身近で生活している中でイメージしにくく、統計や薬の名前、特徴を覚えるのに一苦労する方も多いでしょう。
苦痛が続くことで、「社会福祉士や精神保健福祉士資格を取って本当に役に立つのだろうか」と、疑心暗鬼が強くなってしまうと、モチベーションが一気に低迷してしまい、勉強の手が止まるようになってしまうかもしれません。
福祉現場で働かれている受験生の方々ならば、受験勉強で培った知識をそのまま仕事を通じて還元できるかもしれませんが、全ての方がそうではありません。
そこで、社会福祉士や精神保健福祉士試験で勉強した内容が実際の業務に活かせるのかについて、私の実体験を一つお話したいと思います。
例にもよって社会福祉士、精神保健福祉士と関連がある公認心理師試験で出題された内容について取り上げたいと思います。
2022年7月に実施された第5回公認心理師試験午前科目で下記のような出題が出されました。
問63 45 歳の女性 A、小学 4 年生の男児 B の母親。A は、B の不登校について、教育センターで教育相談を担当している公認心理師 C に相談に訪れた。
親子並行面接の親面接において、A は B について少ししか話さず、結婚以来、夫から受けてきたひどい扱いについて軽い調子で話すことが多かった。
C は、夫との関係で A が傷ついてきたものと推察しながらも、A の軽い話ぶりに調子を合わせて話を聞き続けていた。
そのうちに C は A との面接を負担に感じるようになった。
E. S. Bordin の作業同盟(治療同盟)の概念に基づいた、C の A への対応方針として、最も適切なものを 1 つ選べ。
① C を夫に見立てて、夫に言いたいことを口に出してみるロールプレイを提案する。
② C 自身が、面接を負担に思う自らの気持ちを逆転移と自覚し、その気持ちを重視する。
③ ここに相談に来ることでどんなことが違ってきたら良いと思うかを尋ね、目標について話し合う。
④ 親子並行面接であることを踏まえ、B への関わり方を話題の焦点とし、話が他に逸れても戻すようにする。
⑤ A が話している内容と、その様子が不調和であることを取り上げ、感情体験についての防衛への気づきを促す。
正解は3になりますが、実際に支援の現場でも、この事例に近いような場面を経験したことがありました。
親御さんとお子さんの進路について面談を行い、親御さんのお考えやニーズを聞き出そうとしたところ、涙ながらにこのように語る場面がありました。
「自分も実親から十分な愛情をかけてもらえなかった」
「最近は自分を責め続けてしまい、抑うつ状態になってしまい、午前中はほぼ寝たきりで先が見えません」
いかにご自身が辛い経験を重ねてこられたかというエピソード中心に話をされてくるといったケースです。
親御さんとの信頼関係を構築することを前提に、傾聴に徹しますが、話が進まらなくなるくらい、ご自身の苦労話がメインになってしまう方が稀にいます。
親御さん自身のフォローに着眼点を当ててしまうと、本来の目的とはずれてしまうので、タイミングを見計らって、「ここに相談に来ることでどんなことが違ってきたら良いと思うかを尋ね、目標について話し合う」という視点に切り替えるような対応を行ったことはあります。
また、若者と進路面談を行っていると、なかなか本題に入らずに、話をはぐらかすような言動を重ね、「自分がどう変わりたいのか、目標について話し合う」という切り返しを図っても、乗らずに、心を閉ざしてしまうという場面もありました。
現実の話し合いを求めれば求めるほど、
「俺は発達障がいだから言っていることが理解できない」
「俺は障がい者だから、もっと大切にされるべきである」
という、自身の特性を前面に出して、「障がい者の俺を理解できない人間の方が間違っている」という強固なバリアを張って、牽制しようとしてくる若者もいました。
彼らに共通しているのは、自己肯定感が相当低くて、誰にもわかってもらえないという深い孤独と、愛情に枯渇している背景があることです。
「かくあるべき」という正論で諭そうとしても、反発心が芽生えるだけなので、否定せずに耳を傾けるという姿勢を重視するようにしています。
なぜ虚勢を張っているのか、本心はどこにあるのか、否定せずに、最後まで言い分を聴き続けることで、時間はかかっても、そのヒントをつかめたり、ボソッと本心を吐露するような瞬間が訪れたりします。
「受容」というスタンスの大切さは、社会福祉士試験で何度も出てくる基本ワードですが、人間関係においていかに根幹をなす姿勢なのか、業務を通して体感しています。
第34回社会福祉士試験専門科目の問題で下記のような事例がありました。
〔事 例〕
Gさん(58歳)は半年前に脳梗塞を起こし左半身に障害がある。
正解は2ですが、バイスティックの七原則の「受容」の視点で接することの大切さを問いている出題です。
悲観のプロセスにある「喪失期」に位置するような状態であることが想定されますが、クライエントの哀しみを心の耳で受け止めて、適切な対応ができることが専門職の役割であることが学べます。
※第5回公認心理師試験問114においても、キューブラー=ロスの「死への5段階」についての出題がされています。
今回は、社会福祉士試験や公認心理師試験の事例問題から、受験勉強内容が机上の空論ではなくて、実務上でも応用できたり、あてはまるようなケースを取り上げました。
今後も、社会福祉士や精神保健福祉士等を取得してどのようなメリットがあるのかを紹介していきたいと思っています。